父の寝言
「ぐあああああおおあいたたたたぁぁーーっ!!!」
丑三つ時を回ろうかという今、リビングからけたたましい叫び声が聞こえる。
父の寝言だ。
私がこの家の息子として生を受けてから、(母曰く結婚してからもらしいが)ほぼ毎日と言っていいほど父は眠りにつきながら大声をあげて叫んでいる。
半世紀近くも会社員を勤め上げ、還暦を迎えようとしている父。今日に至るまで一体どれほどの苦難があったのだろうか。
私が幼少の頃の父は、あまり記憶になく、常に家を空けていて、たまに帰ってきていてもほぼ口を利くことなく、笑うことも稀の非常に厳格な父であった。
そんな父が、最近はよくテレビを見て笑うようになった。
仕事もひと段落したのか、家にいることも多くなり、趣味のゴルフにも頻繁に行くようになった。
最初はそんな父を見て物凄く驚嘆したものだが、今になって考えてみると、それほどまでにすさまじい労働環境だったのだろうと思う。今でもそれは傷として残り、夜中に叫んでいるのだろうか。
仕事のことは一切話さない父。家族の私たちの前でも全く愚痴をこぼすことなく会社員を勤め上げた父。
私は父のことを知らないが、その点は心から尊敬している。
(ただ、本当に吃驚するので、絶叫するのだけはやめてもらいたい。言ってもどうにかなることではないのだろうが)